「じんじん」

 この決まり悪さはなんだろう。そう、くじ引きで欲しくもない特等賞を手にしてしまったような。
 そのくせ、心のどこかで嬉しいと感じている自分にジードは苦笑する。
 昨日の今日でばったり再会してしまったサンビームも、その顔に戸惑いを浮かべて立ち尽くしていた。

 断るかと思ったが、サンビームはジードの誘いにうなずいた。
 同じ日本でもモチノキ町と違い、この街は染み込むような寒さが人々の足を速めている。
 強い酒が飲める店で二人は上着を脱いだ。ジードはカウンターに並んで座ったサンビームの身体を無遠慮に眺める。昨日の名残は感じられなかった。
「昨夜は失礼しました」
 そう頭を下げるサンビームの目元が赤い。
「別に迷惑をかけられた覚えはないぜ」
 お互いに存分に楽しんだじゃないかと笑うと、相手の明緑色の瞳が揺らいだ。
「どうして・・・あの時、あんなことを言ったんですか・・・?」

いいんだぜ。お前が欲しいと思う奴の名前を呼んでも。

 ジードは無色透明の液体が舌を灼く感触を楽しみながら答えた。
「あんた、男は初めてだったんだろう」
 サンビームが動揺するのが解る。
「だのに、あっさりOKしたのには理由があると思ったからさ」
 心に想う相手がいる。禁忌であるその感情を卑しい劣情だと断じたくて、他の男と交渉した。
 しかし悦びを感じるどころか心も身体も痛みを感じる一方で、そんなサンビームの胸の内をジードはたった一言であっさり暴いてしまったのだ。
 沈黙するサンビームの横で、ジードは杯を一つまた一つと干していく。
 その視線に気づいて、サンビームも自分の杯を飲み干すのだった。

 店を出ると、どちらからともなく並んで歩く。アルコールで火照った身体は痛いほどの冷気をむしろ心地よく感じていた。
 通りに人影はなく街灯の明かりがぼんやりとつながって道を照らしている。
「アドバイスなんてガラじゃないがな」
 ジードはほとんど言葉を発しないサンビームを見下ろした。
「あいつに全部言ってしまった方がいいと思うぜ」
 サンビームが苦しんでいるのは、その恋が本物だからだ。打ち消すことのできない愛だからだ。
「できません」
 小さな、しかしきっぱりとした返事がある。
「彼は同じ年頃の女性と愛し合って、家庭を持って、幸せになるべきだ。私の気持ちなど彼には必要ない」
 頑ななサンビームの言葉にジードが白い息を吐く。
「あいつの人生をあんたがそんな風に決める権利はないだろう」
 ジードは知らない。サンビームが他人の心を感じる能力を持つことを。愛しい相手が自分に対して淡い好意を抱いているのを知ってしまったからこそ、期待する自分に嫌悪していることを。
「サンビーム・・・」
「お願いです。もう何も言わないでください」
 痛々しい言葉とは反対にサンビームは弱く微笑んでいた。
「どうしてばれてしまったんでしょうね。彼の前でも気づかれることなんてなかったのに」
「この街は寒いからな。あんたは人のぬくもりが恋しくなっているのさ。だから隙ができたんだろう」
 オレでよければいくらでもくれてやる。
 肩を抱き寄せるが抵抗はない。女とは違うがどこか華奢に感じる背中に手を回し、冷たく色づいた唇を重ねる。
 物狂おしく吹き荒れる風はいつか彼をさらってしまうだろう。それまでは温めていてやりたかった。



というわけでジドサンパート2です。続きですよ〜。ダーク入ってますよ〜。



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