「じくじく」
結局、サンビームが宿泊先のホテルに帰ったのは翌朝のことだった。慌てて着替えと朝食を済ませ、研修先に向かう。
本当に自分のしていることが信じられない。誰かに甘えることなどもう何年もなかったのに。
一晩中、自分を抱いていてくれた広い胸を思い出す。朝の風は冷たかったがサンビームの心はほんのりと温かかった。
午後も半ばを過ぎる頃、研修中のサンビームを事務の担当者が呼んだ。
「すまないけど、ちょっと頼まれて欲しいんだ」
出張で来ているのに申し訳ないと言いながら担当者が手を合わせるので、サンビームは指導員の了解をもらって席をはずした。
「どうしたんですか?」
「実はね、工場の方に近くの教会学校の子供達が見学に来ているんだけどね。英語しかわからない子が多くて、うちの社員じゃ解説をしてあげられないんだ」
案内係の言葉を通訳してもらえないかとのことで、サンビームは承諾した。他人に説明するというのは技術指導の際の参考になるかもしれないと思ったからだ。
ところが、サンビームは見学者達の姿の中に見知った顔を見つけ驚いた。
「よう、サンビームさん」
「テッド! ・・・それにジードも」
「サンビーム・・・」
見学に来た教会学校の子供達とはテッドがこの街で友達になった子供達であった。最初はテッドが誘われて見学に参加したのだが、付き添いの手が足りないとのことでジードまで同行することになったとのことだった。
「ここがあんたの職場かい」
ジードに聞かれてサンビームは首を振る。
「いえ、ここには技術研修で来ているだけなんです」
「ああ、モチノキ町に住んでるんだったな」
子供達が二人の周りで騒ぎだした。早く見学したいのだと察して、サンビームが笑顔で案内係に声をかける。動き始めた一団の後ろに続きながら、ジードの視線はサンビームを追うのだった。
一通り見学が終わって、見学者のために用意されている体験コーナーで遊ぶ子供達を見ているサンビームの横にジードが立った。
「ご苦労さん」
「・・・いえ・・・・・・」
一瞬沈黙が起こる。サンビームはジードがなにか言い出すのを恐れるかのように喋り始めた。
「驚きました。まさか私の職場で会うなんて」
「それはこちらの台詞だ。しかし・・・」
ジードの視線がサンビームを上下した。
「似合ってるぜ。その制服」
「ありがとうございます」
ジードが視線を外さないことに気づいて、サンビームは再び言葉を探す。
「・・・テッドのこと、可愛がっているんですね」
厳しい態度ばかりのようでいて、こうやって少年が子供らしく過ごす時間を作ってやっている。ジードという男の優しさはサンビームの心を和ませるものだった。
「まあな、あいつの願いは叶えてやりたいと思っているよ」
ジードはぶっきらぼうに返事した。大切な「家族」を探したいという少年の望みのことは聞いていたので、サンビームは微笑む。その笑みを見ながらジードは言葉を続けた。
「だから、明日にはこの街を出る」
ジードの言葉にサンビームは顔を上げた。霜が降りたように笑顔が凍っていく。
「あんたともお別れだ」
お互い本の持ち主である以上、再会する可能性はある。それでもジードの口からは別離の言葉しか出なかった。
「私も後三日で研修が終わります」
サンビームの声にはなんの響きもなかった。
「帰るんだな」
あの少年のいる町に。ジードが続けなかった言葉をサンビームははっきりと感じていた。
「はい」
「ガッシュたちによろしく伝えてくれ」
「・・・はい」
ようやく自分から視線を外したジードの横顔をサンビームは見ることが出来なかった。
見学が終わった子供達はサンビームに礼を言って帰っていった。教会までジードも同行するという。
「サンビーム」
去り際にジードはサンビームに声をかけた。
「テッドの奴、今夜も教会に泊まるそうだ」
その言葉にサンビームが肩をふるわせる。そして小さくうなずいた。
ジードもそれ以上何も言わず背を向けた。その背中を見送りながら、サンビームは痛む胸を押さえるのだった。
ジドサン第4弾です。制服サンビームさんが書きたかっただけ。萌え〜v
*ブラウザのバックでお戻りください。