「その6」

 二人きりになりたいというサンビームの言葉に、ジードが用意したのはホテルの一室であった。
 温泉が名物になっているためか用意された部屋は和室で、床の間には紅い花が生けられている。ついに一歩を踏み出すことになってしまった自分が恥ずかしくて畳に座り込んでいるサンビームにジードが声をかけた。
「せっかくだから大浴場に行くか?」
「さ、先に行っててください」
 こちらを見ようとしない恋人の葛藤が手に取るようにわかっているジードのからかうような声が、サンビームの耳をくすぐった。
「家族風呂というのもあるんだが」
 床の間の花に負けないほど真っ赤になったサンビームに掠めるようなキスを残してジードが出て行く。
 恋愛に晩熟な彼がやっと決心してくれたのだ。あまりいじめるのは可哀想というものであった。

 ジードと入れ違うようにして入浴してきたサンビームが、無意識にか浴衣の胸元を押さえながらジードを呼んだ。
「あ、の・・・」
 それ以上言葉にならずに口を閉じる。窓際の椅子で煙草をふかしながら夜景を楽しんでいたジードは、陶製の灰皿で火を消すと、湯当たりのせいとはいえない熱気で頬を染めるサンビームの姿に口笛を吹いた。
 さほど若くもない普通の男が恥らう姿がこれほど色気をはらんでいるものだとは、経験豊かなジードにとっても新しい発見だった。
 いや、サンビームという男の人となりを知っているからこそ仕草の一つ一つが愛おしいのだ。
「まあ、座りな」
 ジードの言葉に、サンビームはホテルのスタッフが用意していった布団にぺたんと腰を落とした。一組の布団になぜか枕だけが二つ並んでいることの意味に気づかないでいる彼も、その脇にティッシュケースと共に置かれたものにはさすがに目を見張る。
 衿から伸びるうなじまで朱に染めながら眉をひそめて見上げてくる瞳に、ジードはのしかかるように近づいて言った。
「表のコンビニで買ったやつだからな。サイズが合わないかも知れんが」
 返事を待たずにむさぼるように唇を吸う。着付けない浴衣はかき抱かれてあっという間にはだけていった。
 呼吸を奪われたサンビームの胸が上下に弾む。重なり合っているので、互いの動きがダイレクトに肌を打った。それでも煙草くさい唾液をやっと飲み込んで哀願するようにジードにすがる。
「初めて・・・なんだ。お、願いだから・・・」
 サンビームの告白に、ジードは薄く笑った。
「ああ、忘れられない夜にしてやるさ」
 低い声に背筋を蕩かされながら、花が散るようにサンビームは乱されたのだった。

 翌日掃除に来たスタッフが、全て落ちてしまっている床の間の花に驚いたのは別の話である。



第2回サンビームさん受けチャットより、しのぶさんのジドサンその1ですv えーと、牡丹だっけ?椿だったかな?




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