今度目が覚めた時には -2-

「それにしてもさ。サンビームさんは俺の『この姿』に対して、なにか一言ないの?」
サンビームの家に着いて二人して夕飯を食べながら、ウマゴンが今更ながら目の前のパートナーに問いかけた。
訊ねられたサンビームは、口の中のご飯を咀嚼する間じっとウマゴンの顔を見つめて、たった今気付いた事のように言った。
「・・・人の恰好にもなれるようになったんだね。あ、そういえば喋ってる。すごいね、ウマゴン」
「・・・・遅過ぎ・・・・」
ガクリ、と首をうなだれるウマゴンにサンビームは笑いながら言った。
「だって、変わらないよ、ウマゴン。人の形でも魔物の時の姿でも、ウマゴンはウマゴンだ」
ウマゴンは自分が思い描いていたパートナーの姿が、思い出の中で時が流れた故の脚色ではない事を思い知る。
ああ、俺はやっぱりこの人が大好きだ。ウマゴンがしみじみとそう思っていると、サンビームはふと気付いたように言った。
「あ、でも魔物の姿の方が楽ならそっちに戻ったらどうだい?私はどっちでもいいけどね」
「ああ、それはダメ。こっちの世界にいる間は絶対に人型に変化してなきゃいけないんだ。そーゆー規則なんだよ」
「なるほど」
サンビームは頷いた。
「他にもこっちに居る間の規則はあるのかな?聞いてもいいかい?」
「えーとね、自分のパートナー以外の人間とは極力接しない事。あとはアッチの世界の話をしない事。そのくらいかな」
「・・・結構アバウトなんだね」
「そりゃあ、新しい王様が王様だからさ」
「ああ。・・・とっても納得したよ」
そうして二人はニッコリと笑い合った。

今日買ってきたばかりのウマゴン用の細々とした物が入っている買い物袋。
ベッド脇に置いてあるそれを、どこか夢心地でウマゴンは見つめていた。
すでに時計は深夜を指し、サンビームは自分のベッドで眠っている。
そのすぐ隣りに客用の布団を敷いてもらい、そこに横になっているウマゴンの胸に複雑な気持ちが渦巻く。
小さく繰り返されるサンビームの寝息だけが聞こえる中、ウマゴンは今日までの事を思い返していた。
ずっとずっと会いたかった。
だから許可が出てすぐにこうして会いに来たのだ。
でも本当は、自分と同じだけ時間の過ぎているサンビームにも会いに行っていた。
そして、子供の頃のサンビームにも。
多分サンビームはもう覚えていないだろうけれど、子供の頃のサンビームとは少しだけ話もしたのだ。
あまり時間移動は許されていないのだけれど、どうも自分はサンビームに関する事だと抑制がきかない。
そう思ってウマゴンは苦笑を浮かべた。
布団から起き上がり、ベッドを覗き込む。
あの別れの時と、本当に何も変わっていないように見えるサンビーム。
そのサンビームに対して自分の気持ちの持ちようが以前と変わっている気がするのは、自分が変わってしまったという事だろうか。
サンビームの寝顔を見ながらボンヤリとウマゴンが考えていると。
す、とサンビームの瞼が上がり、ウマゴンへと視線を向けた。
「・・・眠れないのかい?」
「ゴメン、起こしちゃった?」
あせるウマゴンに笑いかけて、サンビームはベッドの端へと体を寄せた。
「一緒に眠ろうか?狭いけどなんとかなるよ」
「・・・・サンビームさん、俺もう添い寝は必要ないんだけど」
「ふふ、じゃあなんで眠れないんだい?」
どこか眠たげな気配のサンビームに色々言うのも申し訳なくて、ウマゴンはおずおずとサンビームの隣りに体を滑らせる。
そんなウマゴンにキッチリと掛け布団をかけると、サンビームはまたあっさりと夢の世界へと入っていった。
その様をすぐ横で見つめ、眠るサンビームの体にそっと腕を回す。
腕に伝わってくるその感触の心地好さ。
ウマゴンは小さく呟いた。
「・・・どうしようか。俺はどうしたらいい?サンビームさん」

自分を包み込む何か。
その温かさにサンビームはなにかを思い出しかけて、そこで目を覚ました。
気付けばウマゴンが自分に腕を回した状態で眠り込んでいる。
その寝顔に子供の頃のウマゴンの雰囲気を感じ取って、サンビームは微笑んだ。
昨夜はなかなか寝付けなかったようだが、やはり久々の人間界に違和感を感じているのだろうか、と思う。
昨日、ウマゴンと再会してからの自分は、どこかフワフワと浮き上がったままのような気がしてサンビームは苦笑した。
あの頃。
日々は戦いに彩られていたけれど、それでもウマゴンがそばに居る事で、こんなにも充足感を感じていたのだろうか。
ボンヤリと考え事をしていると、目覚まし時計の音が鳴り響いた。
ウマゴンの腕の戒めを解いて慌てて時計を止めるが、サンビームが振り返ってみると、もうウマゴンは目覚めて自分の方を見つめていた。
でもその視線はどこかサンビームの知らない気配を漂わせていて。
「・・・ゴメンよ。起こしてしまったね」
「おはよ。サンビームさん」
少し戸惑いながら声をかけたサンビームに、ウマゴンがいつもの様に笑って答える。
その事になぜかホッとしながらサンビームも返事をした。
「・・・ああ、おはよう」
「まだジョギングは続けてるの?」
「ああ、今日も行って来ていいかな?」
「うん。じゃあその間にご飯作っておくよ。何時くらいに戻ってくるの?」
「ええとね・・・」
ウマゴンと和やかな会話を続けながらサンビームは内心苦笑していた。
また近く必ず訪れるウマゴンとの別れの日。前回よりもそれを辛く感じてしまいそうな自分に。

それから。
3週間があっという間に過ぎた。楽しく過ぎる毎日。
仕事から帰るとウマゴンが出迎えてくれる。
ご飯を毎回誰かと食べる生活は何年振りだろう。
ただその間、サンビームはふとウマゴンが自分を見つめてくる視線に、以前と違う色を見かけるようになった。
その事にサンビームは戸惑う。
以前の、ただただ純度の高い信頼という名の色を浮かべていた瞳とは違うなにか。どこか焦りを感じさせるような。
それでもウマゴンのそばはとても居心地が良くて。
サンビームはそんな日々が一日でも長く続く事をただ祈っていた。

「サンビームさん、そろそろ寝ようよ」
「・・・・うん、そうだね」
毎晩繰り返される言葉。
サンビームの返事に、微妙に間が空いてしまうのはいつの間にか最初の日のようにベッドで二人で寝る事が、
すっかり習慣付いてしまったからだ。
ただ二人でぎゅうぎゅうになって寝るだけならそれほど気にもならないのだが、必ずウマゴンがサンビームの体に腕を回してくる。
その事が妙に照れ臭い。
それを言うとウマゴンに「前はサンビームさんが俺の事抱っこして寝てたじゃないか。それが逆になっただけだろ?」
と、言い返されてお終いになってしまう。
そういう問題なのか?と思いつつも、すっかりウマゴンのペースにハマってしまっているサンビームが、
内心ウマゴンは嬉しくて仕方がない。
前からそうだったが、どうもサンビームはウマゴンに甘い。
例えば清麿に言ったら即答で怒られたりダメ出しをされるような内容でも、サンビームに頼むとあっさりと
自分の意見を受け入れてくれていた事を思い出す。
「じゃあオヤスミナサイ、サンビームさん」
「・・・オヤスミ、ウマゴン」
今夜もウマゴンはサンビームを抱きしめて眠る。
それはウマゴンにとって至福の時間であった。

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