今度目が覚めた時には -3-

サンビームは夢を見ていた。
幼い頃の記憶。
変わった髪の色や移民である事や、サンビーム自身のどこか他と違った気配や。
集団の子供という存在は、そんな事を目敏く見つけては残酷なまでに悪意なく糾弾する。
そんなある時。
幼くてどう反論していいかもわからずにいた自分を抱きしめてくれた人の思い出。
その温かい記憶の夢。
サンビームは夢の中で自分を抱きしめてくれる人を見上げ微笑んだ。
名前も知らない、顔ももうハッキリとは覚えていない。
ただ優しく自分を見つめるその瞳が印象的で・・・
「!!!!!!」
パッチリと音がしそうな勢いでサンビームは目を覚ました。
ガバリと体を起こそうとして、自分の体に回っているウマゴンの腕に動きを止められる。
時計を見るとまだ明け方にもなっていない。
ウマゴンを起こす訳にも行かず、サンビームは動くのを諦めて強張っていた体を弛緩させた。
まさか、・・・・そんなわけない・・・・と思うのだが。
今の夢は自分の本当の記憶なのか、それとも脳内で捏造したものなのか。
サンビームは混乱した。
さっきから自分の心臓が異常な早さで脈打ってるのがわかる。きっと顔も赤いに違いない。
サンビームはしばらく思い悩んだ後、考える事を放棄した。
この思い出が大切なものだという事だけは紛れもない事実なのだから、それでいい。


サンビームの休日の日。
ウマゴンは今朝からずっと自分の顔をマジマジと見つめてくるパートナーに苦笑いを浮かべながら言った。
「・・・朝から変だよ?サンビームさん、俺の顔がどうかした?」
「いや・・・」
ウマゴンに言われて初めてサンビームは自分がやたらとパートナーの顔に見入っていた事に気付いた。
今朝の夢の事がどうにも忘れられなくて。・・・まさかとは思うけれど、聞いてみようか。
サンビームは意を決してウマゴン向かって質問を投げかけた。
「ウマゴン。まさかとは思うが君は子供の頃の私に会いに行った事が、あったりするかい?」
ピシリと固まったウマゴンの表情に、答えが是であると気付き、サンビームは目を見開いた。
「・・・・そうなんだね?」
「う・・・」
悪戯を見つかったような顔をしているウマゴンを、サンビームは不思議な気分で見上げていた。
「・・・何でそんな事をしたんだい?」
「えっとー・・・ちょっとでいいから子供の頃のサンビームさんが見てみたくて・・・でも・・・・ゴメンナサイ」
「? 何で謝るんだい?」
「え?だってイヤな気分になってない?俺にそんな・・・なんつーか・・・付き纏われて・・・」
モゴモゴと言葉を返すウマゴンに、サンビームは微笑んだ。
「ビックリはしたけど。どっちかというと嬉しいかな。
ハッキリと顔までは覚えていなかったけれど、あの時の思い出は私の中でも結構大切なものなんだよ?」
「・・・ホントに?」
大きな体を縮込ませていたウマゴンの顔に笑みが戻った。
「・・・あの時は、守ってくれてありがとう」
そう言って自分に微笑んでくるサンビームを、ウマゴンは我慢出来ずに抱きしめた。
「そうそう、こんな感じだった」
ウマゴンの腕の中でサンビームが笑う。
「でも考えてみたらあの時だけじゃないね。
2年前の戦いの時だって、ウマゴンは私も含めてみんなを守ってくれていたしね」
「でもそんな俺を守ってくれてたのはサンビームさんだよ」
「そうかな? ふふ、まさにパートナーだね」
腕の中のサンビームが笑ってその振動が自分の腕に伝わる。
その心地好さに、ウマゴンは自分の口が勝手に喋りだすのを自覚した。
ずっと、サンビームに言いたかった言葉。でも言うのが怖かった言葉。
そして、もう我慢できない言葉。
「・・・ねえ、サンビームさん。俺サンビームさんが大好きなんだ。
この気持ちはサンビームさんがパートナーだからなのかな?
それとも、サンビームさんがサンビームさんだからなのかな?
なんで俺、こんなにサンビームさんのそばに居たいのかな?
なんでこんなに、サンビームさんを守りたいって思うんだろう?
俺が・・・サンビームさんを抱きしめたいってキスしたいって思ってるって言ったら、サンビームさんは・・・どうする?」
そこまで言い切ってから、ウマゴンは怖くなって腕の中のサンビームと視線が合わないように抱いている腕の力を強めた。
こんな事を言ってしまって・・・拒絶されたらもうそばには居られない。
どうせ残り少ない時間、最後まで我慢していれば、せめてギリギリまで一緒に居られたのに・・・。
ウマゴンの胸中に後悔の言葉が駆け回る。
一方サンビームは。
ウマゴンの告白に、どこかでその気持ちに気付いていたような気がする自分に戸惑っていた。
ウマゴンらしい、単純で直球で真直ぐな言葉。
そこまで考えて、サンビームは前から感じていた違和感を改めて思い出した。
単純なウマゴンがサンビームの会いに来ようとしたら、
普通は自分と同じだけの時が流れているパートナーに会いに来るのではないだろうか。
どうやら子供時代にも行っているようだし、好きな時代に行く術は持っているようなのに。
ウマゴンは3年、と言っていてが日付的には随分と中途半端だ。
2年数ヶ月は経っているが3年とは言い難い。
なんでこんな半端な時期を選んだのか?
そしてサンビームを見つめるあの視線。まるでサンビームが今にも居なくなってしまうのを不安がっているような。
今サンビームの周りに、それほどの危険はないというのに。
そこまで考えて、サンビームはふと一つの考えに思い当たった。
そう考えるとはウマゴンの行動にも納得が出来て、サンビームはすとんとその考えを受け入れる。
あまり、信じたくはなかったけれど、それ以外に「今」を選ぶ理由が思い当たらなくて。
それでも、それによって自分の気持ちはすんなりと見えてきた。
自分が本当にしたい事。それが一体なんなのか。

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