今度目が覚めた時には -4-
「ウマゴン」
腕の中のパートナーに身動ぎをされて、ウマゴンは渋々と腕の力を緩めた。
サンビームからどんな言葉が返ってくるのか、それが怖くて仕方がない。
なかなかサンビームと視線を合わせないウマゴンに、とうとうサンビームは掌でウマゴンの両頬を挟んで自分の方へと顔を向けさせた。
やたらと神妙な顔をしているウマゴンに笑いかけ、サンビームはそのまま自分からウマゴンへとキスを送った。
そして唇を離してウマゴンを見る。
「・・・」
いくら待っても大きな目を見開いたまま固まっているウマゴンに、とうとうサンビームは噴き出した。
「ぷ、くくく、ウマゴン・・・その顔・・・・っ」
「!・・・そ、そこまで笑わなくたって.・・・!」
やっと硬直から回復したウマゴンは、混乱したまま、それでもたった今パートナーから恋人になった腕の中の存在を思い切り抱きしめた。
もう一度目が合うと、今度はウマゴンから唇を合わせる。
今までは抱きしめられるままだったサンビームが、腕を自分の背中に回したのを感じて、ウマゴンは幸福感に包まれる。
こうしてこの気持ちを素直に出したままサンビームさんを抱きしめる事が出来るなんて。
そんなふわふわした気持ちのまま、合わせていた唇を離して恋人の顔を覗き込み、しかしウマゴンはどこか硬いサンビームの表情に困惑する。
「・・・サンビームさん?」
「・・・ウマゴン、聞きたい事があるんだ」
「・・・え、・・・なに?」
「・・・ウマゴン、君は自分と同じだけ時間の経っている私にも会いに行ったんじゃないかい?」
「え・・・・」
サンビームの思いがけない言葉に、ウマゴンは返事が返せない。
しかしその強張ったウマゴンの顔に、サンビームは自分の考えに確信を深めた。
「・・・『その時』にはもう私が居なかったんだね?」
「!!! サ、サンビームさん!なにを言ってるのかわからない!!!」
サンビームの言葉を塞き止めようと、ウマゴンは声を荒げた。
「・・・なんでこんな中途半端な『今』を選んだんだい?もしかしてもうすぐなのかな?私が死・・・・」
「サンビームさん!!!訳がわからないてってば!!!!!」
必死に、笑みの形に口元を歪めながら自分の言葉を遮るウマゴンに微笑んでサンビームは、つん、と恋人の眉間を突付いた。
「・・・眉間にしわが寄ってる。今、泣くのを我慢してるだろう、ウマゴン?」
・・・全部バレてるんだ。
ウマゴンは自分の失態に顔を青褪めさせた。
サンビームの勘の良さを誰よりも知っているのは自分だったはずなのに。
「・・・・サンビームさん」
自分の死期を知ってしまうなんて、こんな恐怖はあるだろうか?
少しでもサンビームさんと一緒に居たい、そう思ってしまった自分のワガママのせいで・・・!
「ウマゴン。泣かないでいいよ?」
大きな瞳からボロボロと涙を流しているウマゴンに、サンビームは微笑んだ。
男の割にはほっそりとした形のいい指でウマゴンの頬を優しく拭う。
「辛い思いさせてゴメンよ? でも、どうしても聞きたい事があって」
なんでこんな時まで謝るの?謝らなければならないのは俺のほうなのに!
そう思いながらもウマゴンは声も出せず、ただ泣きながら自分の頬に触れているサンビームの手を取った。
温かい掌。この掌に幾度守られ、慰められてきたんだろう。それなのに。
「ウマゴン」
もう一度呼びかけられて、ウマゴンはおずおずと視線をサンビームのそれと絡めた。
その優しさを湛えた瞳に、またウマゴンの目から涙が零れる。
それをまたそっと拭い、サンビームは口を開いた。
「ウマゴン、あの戦いの時、私たちは確かに親子みたいなパートナーだったよね?
それなのに、どうして急に私にそんな気持ちを持ったんだい?
もしかして死んでしまう私に同情してなのかな?」
「それは違う!!!違うよサンビームさん!!!」
今までの打ちひしがれた表情から一転して、ウマゴンは強い視線をサンビームに送った。
サンビームの両肩に手を乗せて自分へと引き寄せる。その力のままにサンビームは体をウマゴンに預けた。
「よかった・・・君の気持ちが同情じゃないなら、それでいいんだ」
サンビームの言葉に、ウマゴンは真剣な表情で口を開いた。
「ゴメン、ホントは俺、一番最初に子供の頃のサンビームさんに会って、その後確かに・・・俺と同じだけ時間の経ってる人間界にも行った」
固く強張ったウマゴンに、サンビームは柔らかく頷いた。
「・・・その後この世界に来て、・・・サンビームさんが居て。俺の知ってるサンビームさんのまんまでさ。
あの小さくて苛められてた子がどれだけ頑張ったらこういう人になれるんだろうって改めて考えたら
なんだかサンビームさんを・・・すごく守りたくなっちゃって。
その後も一緒に住んでる内に、どんどん『そういう風』に見ちゃってる自分に気付いて・・・・
でもそれは、死んじゃうからじゃない。ホントだよ」
「うん、ありがとう」
淡く微笑むサンビームはすでにその運命を受け入れてる事を感じさせて、ウマゴンは息苦しさに喘いだ。
「・・・イヤだよサンビームさん。なんで俺を置いていくの?」
「・・・ウマゴン・・・」
苦しげな顔をしているウマゴンの頬にまた自分から唇を寄せながら、サンビームは小さく囁いた。
「スゴい事を教えてあげようか?・・・・ウマゴンはね、私の初恋の人なんだよ」
「・・・・ウソ」
「ホント」
「・・・なにそれ・・・・」
「だから今、こうしていられて私は幸せって事だよ」
サンビームの告白に、ウマゴンが頭を真っ白になった。
腕の中のサンビームを見つめれば、照れた顔で微笑み返してくれる。
「だから、あとどのくらいの時間があるのかは知らないけれど、その間は・・・一緒に居て欲しいな」.
言葉もなく思い切り自分を抱きしめてくる腕に、サンビームは体の力を抜いた。
「・・・ありがとう、ウマゴン」
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