今度目が覚めた時には -5-

この人の命が、後たった二日。
サンビームの寝顔を見ながら、ウマゴンは自分の力の無さに唇を噛み締めた。

自分と同じだけの時間が経ったこの世界に行った時の事をふと思い出す。
目指す相手の気配がどうしても感じられず、ウマゴンはもう一人の知り合いの元へと行き先を変えた。
そこで知らされた事実。
あの戦いから3年も経たない間にサンビームが事故死していた事。
あれだけの戦いを生き抜いておきながら通りすがりの小学生を庇って死んでしまうなんて、
あまりにもサンビームらし過ぎてウマゴンは涙も出なかった。
不器用に自分を労わる知り合いに別れを告げてからウマゴンは魔界にとって返し、
なんとかサンビームの命を救う手立てを見つけようと奔走した。
しかしそこで言われた言葉。
「人間の命はそう簡単に救えるものじゃない。
お前が無理に運命を捻じ曲げようとすれば、その歪みが救おうとした相手に降りかかる。
お前が関わったばっかりにその日は助かったとしても次の日にもっとむごい死に方をするかもしれないんだぞ。
それでもいいのか?」
ならばせめて。少しでもサンビームさんの最後の日々をを温めてあげたいと思って・・・
いや、自分がサンビームさんのそばに居たくて・・・・この時代に来たけれど。
だけどまさか、サンビームさんにも同じ思いを持ってもらえるとは思っていなかった。
そっと、サンビームの頬に手をあてる。
先程までの行為のせいでうっすらと湿り気を帯びているその肌の温もり。
・・・もうこの人を手放したくない。そう思うのに。
この世界の運命がいつまでもこの人に死をもたらそうとするのならば、俺がずっとそれから守り抜く事は出来ないのだろうか。
そこまで考えて、ウマゴンは気が付いた。
「魔界・・・」
そうだ、魔界に連れて帰ってしまえばいい。
人間を魔界に連れて行ってはいけない、という原則はあるけれど、それでもまったく不可能ではないはずだ。
サンビームは、自分と同じ気持ちでいてくれるならば、きっと受け入れてくれる。
どうすればこの計画が可能になるのか、ウマゴンは必死に考えた。
たとえ微かな可能性でも、この人を守るためならやり遂げてみせる。
ハッとしてウマゴンは時計を見た。
今から魔界に帰り、あの事故でサンビームの命が消えてしまう前にまたこの時代に戻ってくるには
どれだけの時間が残っているのか。
魔界からこの世界に続く時空のトンネルをくぐり抜ける時の制約がウマゴンの頭の中を駆け巡った。
魔界に帰るための時間とこちらに戻ってくるための時間。
その二つの時間は重なる事が出来ない。
サンビームの事故の時間から逆算して計算すると・・・・今すぐに魔界に戻らなければ。
そうすればサンビームの事故の時間までにまたこの時代に戻れるはず。
・・・・自分の死が近い事に気付いているこの人を一人にするのはとても辛いけれど。
どうしても、この人を守りたいから。
いや違う。自分のそばに、この先もずっとこの人に居て欲しいから。

一瞬だけ躊躇ってから。
それでもウマゴンは声を出した。サンビームの運命を変えるために。
「サンビームさん」
ウマゴンの逼迫した声にサンビームが目を覚ます。ウマゴンの纏う気配に何かを感じ取ったのか
不安そうに「ウマゴン?」と声をかけてきた。
「ゴメン、本当にゴメン、サンビームさん。俺、一回あっちに戻らないといけなくなった。
でも絶対に戻ってくるから。待ってて。・・・絶対に、それまでに帰ってくるから」
ウマゴンの言葉の内容にサンビームは目を見開いた。
それでも、しばらくウマゴンを見つめた後サンビームは淡く微笑む。
「・・・待ってていいのかな?」
そう言いながらもどこか諦めの気配を漂わす恋人に、ウマゴンは言った。
「待ってて。絶対に、無茶な事しないでよ?」
そう言ってもう一度自分にキスを落とすウマゴンにサンビームは頷いた。
「・・・無理はしなくていいからね?」
「・・・絶対に戻ってくるから」
そう言ってすぐに時空の狭間へと飛び込む。
最高のスピードを出すため呪文を唱え、一気に魔界へと駆け戻る。
誰にどう助言をもらうかはもう決まっていた。
こんな時でもなければ絶対に自分からは近付こうとは思わない相手。重力使いの・・・黒い魔物。

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