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その日の深夜。
サンビームはやってきた清麿を少し驚いた顔で出迎えた。
「なんでそんなに驚いてるんだよ?さっきメールで行くって伝えただろ?」
「いや・・・なんだか随分と機嫌がいいから・・・そういえばメールに書いてあった「見せたいもの」ってなんだい?」
「それは後でのお楽しみ〜。とりあえず喉渇いた、お茶もらっていいか?」
「ああ、もちろん・・・」
ガッシュとウマゴンが居ない分、周りを気にせずにのんびりと過ごせる時間を雑談をしながら二人して楽しむ。
日付が変った頃、昼間にウマゴンとガッシュの遊びに付き合っていたサンビームは眠気を感じて目を瞬かせた。
明日は休日だしこの時間に清麿が「行く」とメールで伝えてきた時点で「そういう」流れになるのだろうなあとぼんやりと思っていたが
今日はそういう事は無しなのかもしれない、と思い始める。
今も清麿はテレビの深夜番組を興味深げに見入っている。
・・・先に寝かせてもらおうかな。なんだか今日は眠い。
この一週間のヘビーな仕事だけじゃなく、昨日の倉庫整理の疲れもあるのかもしれない、と思いついてサンビームは苦笑した。
次の日に疲れが出るなんて、年取った証拠みたいだ。
「なに一人で笑ってんだ?」
急に顔を覗き込んできた清麿に、サンビームは「うーん、なんだか眠くて。先に寝てていいかな?」と思ったままを言う。
今までにもそういう事はよくあったので、あっさりと「いいよ」と言われると思っていたサンビームは不機嫌になった清麿に
「見せたいものがあるんだってば」と言われてからその事を思い出した。
「そうだったね、すまない。なんだか眠気で頭もまわっていないみたいだ」
「じゃあ、見てくれるか?」
「もちろん」
途端に上機嫌になって自分の上着のポケットを探り出した清麿を、サンビームはホッとした顔付きで見守った。
「じゃーん!」
清麿がテンション高くサンビームに何かを手渡してきた。
咄嗟に受け取って、見慣れたそれに、首を傾げる。
「これは・・・昼間の針金だよね?なんだか「8」みたいな形になってるけど・・・?」
昼間清麿に捨ててくれ、と頼んだあの針金。
あれで輪を作ってから更に中央で何回か捻ってあるだけの、本当に数字の8のような形状。
得意げな清麿に「これはなんですか?」と聞く事が出来ず、サンビームは眉をさげて手の中の針金を見つめた。
「これは手作りサムカフだ!凄いだろ??」
そんなサンビームの戸惑いも気にせずに、清麿は得意そうに言う。
「サムカフ・・・っていうものなんだ??」
聞きなれない単語に、サンビームは感心した。
どんな事に使う道具なのだろうか?
この二箇所の輪になにかを入れるんだろうけれど・・・・
「あれ?サンビームさん、サムカフ知らないんだ?」
清麿の言葉に、サンビームは素直に頷く。
「これはね・・・」
サンビームの手からサムカフを受け取り、清麿は使ってみる?と聞いてきた。
使い方を知りたかったサンビームはコクリと首を縦に振る。
「じゃあサンビームさん、右手出して」
清麿に言われた通り、サンビームは掌を差し出す。
ああ、人に使うものなんだ。もしかしてツボ押しとか、そういう東洋系のものだろうか?と思いながら。
「んで、ここに親指を入れて・・・」
清麿の指示通りに輪の一つに自分の親指を入れるサンビーム。
指を入れた輪がぴったりとサンビームの親指に巻きつくように余分な分を捻り上げた清麿がサンビームにニッコリしながら訊ねた。
「どう?緩くない?外れないようになった?」
サンビームは指に針金をくっつけた状態で手を振ってみる。
「うん、しっかりくっついたよ。それで??」
「で、腕を背中に回して〜・・・あ、そっちの手も背中に回して」
カフサムの付いている自分のの腕を持った清麿が背後で出した指示にサンビームは大人しく従った。
「で、こっちの親指ももう一個の輪に入れて・・・捻って・・・・はい、出来た」
「・・・?」
嬉しげな清麿の言葉と裏腹に、サンビームにはさっぱりカフサムの意味がわからない。
背中で親指同士を針金で繋がれている状態・・・この体勢が健康にいいとか???
きょとんとした顔で自分を見つめてくるサンビームに、清麿は我慢できずに口元にニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「カフサムがどういう道具かまだわからないの?サンビームさん??」
「えー・・・と?」
あれだけ得意げだった清麿に、道具の意味がわからないと言うのも申し訳なくてサンビームは言葉を濁す。
「あー、もうだめ。あんた鈍過ぎで天然過ぎ」
笑いながら清麿はサンビームに抱きついた。
「あのね、カフサムっていうのは・・・」
言いながら清麿はサンビームのシャツに手を伸ばしボタンを外す。
反射的にそれを止めようとして・・・・サンビームは目を見開いた。
「わかった?」
サンビームの首筋に顔を埋めたまま、清麿は嬉しそうに言った。
「カフサムっていうのは拘束道具の一種。指にかける手錠なんだよ」
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