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ある土曜日。
「昨日、会社からいい物をもらってきたんだよ」
大きな箱を持ってサンビームが清麿の家へと遊びに来た。
「うわ、なんだサンビームさん、随分と重たそうな荷物だな」
「ふふ、みんなでシャボン玉を作って遊ばないかい?」
そう言ってサンビームが持っていたダンボール箱から出してきたのは業務用サイズの台所用洗剤と、洗濯用のり、それと砂糖の袋。
「こんな大量にシャボン玉液を作るのか?」
呆れ顔で言う清麿とは違い、ガッシュもウマゴンも目をキラキラと輝かせてサンビームの動作一つ一つを見守っている。
「清麿、一番大きな洗面器を貸してくれないか?」
「うん、いいけど・・・」
それにしたってそんな大量なシャボン液、使い切れないだろうに、と思いつつガッシュたちが盛り上がっているのに水を注すのも気が引けて
清麿は大人しく浴室に置いてある中で一番大きな洗面器を庭へと持ち込んだ。
「ありがとう」
清麿から受け取った洗面器に勢い良く台所洗剤、洗濯のり、一掴みほどの砂糖、それに少量の水を入れると良くかき混ぜるサンビーム。
手際良く、大きな洗面器に深さ10センチ以上の大量のシャボン液が出来上がった。
「そうすると・・・このくらいだね」
次にサンビームは清麿が持ってきた洗面器の直径に大きさを合わせて、ポケットから出してきた針金で輪を作り、それに持ちやすいようにとってを付けた。
それをあっという間に3つ作ると、ガッシュとウマゴン、清麿へと手渡す。
「うわ、これって・・」
「ふふ、大きなシャボン玉が作れるよ」
ニッコリと笑いかけてくるサンビームに、興奮した真赤な顔を向けてガッシュが言った。
「凄いのだ、サンビーム殿!!!さっそくやってみていいかのう??」
「メルメル〜vvv」
ウマゴンも手首にくるりと巻きつける形で固定してもらった針金を振り回して盛り上がっている。
ガッシュがまずシャボン液に針金を浸し、そっと持ち上げると針金の輪に薄い膜が出来上がっている。
「縦に持って真横に動かしてごらん?」
サンビームのアドバイスに合わせてガッシュは腕を動かしてみる。すると。
「おおおお、大きいのだ!こんな大きなシャボン玉、初めて見たのだ!!!」
ガッシュの叫び声通り、ガッシュの顔ほどもあるシャボン玉がフワリと浮かんでいる。
「メルメルメー!!!」
続いてウマゴンも大きなシャボン玉を上手に作る事が出来て嬉しげに歓声をあげた。
「俺も一回やってみよう・・・」
興味をそそられてガッシュとウマゴンの合間に清麿もシャボン液へと針金で作った輪っかをシャボン液に浸し、すいっと横に流してみる。
「わ、ホントに出来た!」
そのまま繰り返し歓声をあげながらシャボン玉を作る三人を、サンビームはニコニコと微笑みながら見守った。
「すごいな、サンビームさん。シャボン玉液ってこんな簡単に出来るものなんだな」
何回か大きなシャボン玉を作って満足すると、清麿はサンビームへと近寄った。
「ふふ、砂糖を入れて粘りを増すのがポイントなんだ」
「へえ、良く知ってるな」
「子供の頃、良く作ったんだよ。シャボン玉が飛んでいくのを見るのが好きだったから。
で、昨日職場の倉庫の整理があってね。随分前に使っていたらしい中途半端に残っていた洗剤と、作業着を洗うのに使われてたらしい洗濯のりが出てきて。
捨てるって言うからもらってきたんだ。
これで使い切っちゃったけど、またやりたくなったらいつでも作ってあげるよ。
・・・・次回は量は少なくなっちゃうかもしれないけどね」
そう言って笑うサンビームの手にはさっきの針金の残りが握られている。
「それは・・・」
「やっぱり職場の廃棄物からもらってきたんだ。もう残り少なくなってて使い道がなかったんでね。
でもこれももう使えないなあ・・・」
サンビームは持っていた針金を清麿に差し出してみせる。
確かにもう20センチもないであろう針金に、清麿は手を出して言った。
「じゃあウチで捨てておくよ。持って帰っても捨てるだけなんだろう?」
「ああ、悪いね、ありがとう」
「それにしてもサンビームさんは器用だよなあ。こんな針金であんなの作れちゃうんだから」
いかにも感心したように言った清麿に、話をなんとなしに聞いていたガッシュが口を挟んだ。
「うむ、清麿と違ってサンビーム殿は器用なのだ!すごいのだ!!!」
ガッシュの言葉に、サンビームの脳裏に清麿が学校で作ったという粘土細工が浮かび上がった。
普段の知識レベルが高いだけに、小学生低学年が作ったかと思うようなその造形を思い出して、思わずサンビームの口元が綻ぶ。
決して馬鹿にしたつもりはなかったのだが、そのサンビームの表情を見て清麿がジロリと睨んできた。
サンビームが焦り顔になると、清麿も苦笑いを浮かべる。
「確かに俺は手先不器用だからなー。でも悔しいし・・・そのうちサンビームさんもビックリするようなもの作って見せるからな!」
ニヤリと不敵に笑う清麿に、サンビームも笑って答えた。
「うん、楽しみにしているよ」
その後、ガッシュとウマゴンに混じってシャボン玉を作って遊びだしたサンビームが、持っていた針金を大切そうにポケットにしまう清麿の姿に気付く事はなかった。
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