そばに
「だってそんなボタンのほつれも直してくれない様な恋人、サンビームさんには似合わなくない?」
「・・・私は繕い物をしてもらうために恋人を作るわけじゃない。
自分の恋人は自分で選べるよ。・・・君に助言をもらわなくてもね」
奥の部屋に居る俺にも聞こえるくらいハッキリとした声でそう言ってくれたサンビームさん。
押しかけ来た元同僚の女を玄関で追い返して、サンビームさんはまた俺の待つ部屋へと戻ってきた。
「・・・待たせたね」
そう言って苦笑いを浮かべているサンビームさんを俺は無言で見上げた。
そんな俺の顔を覗き込んで、サンビームさんが困ったような表情を浮かべる。
「・・・不愉快な思いをさせたかな?」
サンビームさんになにか言おうと思っているのに、下手に口を開いたら思ってもいない事を言ってしまいそうで俺はサンビームさんから視線を逸らした。
俺の視線は無意識にサンビームさんの袖口に向いてしまう。
さっきの女に指摘された通り、ボタンが取れそうになっているそこ。
「・・・清麿、君が気にする事はなにもないんだよ?」
俺の視線に気付いたらしいサンビームさんの言葉に、俺は頷く事が出来ない。
やっと高校に入ったけど、サンビームさんとの差は全然縮まらない気がする。
特に、こんな事があると。
サンビームさんがモテてるのなんて、前から知ってる。
特に結婚願望の強いヤツにやたらと人気があることも。
どうしたって俺にはあげられないいろんな事。そんな事が頭の中を駆け巡ってしまう。
「清麿」
すぐそばからかかった声に俺は顔を跳ね上げた。
俺の隣りに立て膝で座り込み、すぐ真上から俺を見つめてくるサンビームさんの目が感情に揺れている。
「清麿、こういう時に不安になるのは君だけじゃないんだよ?」
その瞳と言葉に押されて、やっと俺はサンビームさんの肩に手を回す事が出来た。
抱きしめた体が、ゆっくりと弛緩するのがわかって俺の体からも力が抜ける。
「・・・サンビームさんが好きなのは俺なんだもんな?」
「そうだよ」
「俺が好きなのはサンビームさんだよ?」
「ずっとそうだと・・・嬉しいんだが」
「じゃあ、不安がる事なんてお互い無い筈なのにな」
そう言って俺が苦笑すると、俺の肩口でサンビームさんも小さく笑った。
「・・・そうだね。でも、好きだからこそ不安になるっていうのもあるのかもしれないね」
「そういう時はどうすればいいんだ?」
俺の問いに、サンビームさんは少しだけ時間をおいてから言った。
「そばに、居るしかないんじゃないかな?」
「俺もそう思う」
サンビームさんを抱く腕に力を込める。
サンビームさんも俺の背中に腕を回してくれたから、そのまま少し乱暴に唇を重ねた。
まだ外は明るくて、普段だったらこんな事、ありえないんだけど。
でももう止める気もないし、止まる気もない。
耳元で「いいよね?」と聞いたら、俺の言葉に体を小さく竦ませてから、背中に回している腕に力をこめてくれた。
そっとベッドに横たえて、サンビームさんと視線を絡めると、俺を見上げてくる黄緑色の瞳がやたらときれいに見える。
「・・・今日は手加減無しでいいよね?」
「なんて答えればいいのかな?」
俺の言葉に笑って答えたサンビームさんは、顔を持ち上げて俺の首筋をいきなり舐めてきた。
「・・・それって誘ってるわけ?」
「そのつもりなんだけど?」
俺の視線を受け止めてきれいに笑う恋人に煽られて、俺はあっさり理性を放り捨てると目の前の唇に噛み付くようにキスをした。
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